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「対外債務(短期)に対する外貨準備不足」が通貨危機を誘発する

前回タイの通貨危機を研究していて、「対外債務(短期)に対する外貨準備不足」が通貨危機を誘発するポイントになるのではないかと思いました。

 

そこで、今回はこの仮説を確認してみたいと思います。もちろん他の要因も考えられるので、めぼしい指標も一緒に調査してみます。

とりあえず、比較的データが出揃っていたメキシコ・ブラジル・アルゼンチンの通貨危機前後の経済動向を見ていきます。ちなみにどこもタイと同様、固定相場制を採用しています。

(参考)外貨準備

 

※赤字の年に通貨危機が発生

■メキシコの経済[単位:10億ドル] ※94年12月から65%減価

93年94年95年96年97年98年
物価上昇率8.0%7.1%52.0%27.7%15.7%18.6%
実質経済成長率1.8%4.5%-6.2%5.4%6.8%5.0%
失業率3.43%3.70%6.23%5.45%3.73%3.16%
名目GDP491513335387468487
外貨準備高25.36.416.819.427.831.8
対外債務残高132140167158149160
対外債務残高(短期)363937302826
財政赤字/GDP0.7%-0.3%-0.2%-0.1%-0.6%-1.2%
政府債務/GDP19.5%31.7%36.8%26.5%21.6%23.6%
経常収支/GDP-6.1%-7.1%-0.6%-0.7%-1.8%-3.7%

 

■ブラジルの経済[単位:10億ドル] ※99年1月から1ドル1.2レアル→2レアル

96年97年98年99年00年01年
物価上昇率9.6%5.2%1.7%8.9%6.0%7.7%
実質経済成長率2.5%3.1%0.1%1.0%4.0%1.5%
失業率5.43%5.68%7.60%7.60%7.10%11.27%
名目GDP840872841573642553
外貨準備高58.350.842.634.832.535.7
対外債務残高181198241244239226
対外債務残高(短期)363530293128
財政赤字/GDP-3.4%-4.3%-7.4%-3.4%-1.2%-1.4%
政府債務/GDP33.3%34.4%41.7%48.7%48.8%52.6%
経常収支/GDP-3.0%-3.7%-4.3%-4.7%-4.1%-4.6%

 

■アルゼンチンの経済[単位:10億ドル] ※02年1月から40%減価

97年98年99年00年01年02年
物価上昇率0.3%0.7%-1.8%-0.7%-1.5%40.6%
実質経済成長率8.0%3.8%-3.4%-0.8%-4.4%-11.0%
失業率15.95%14.79%16.06%17.13%19.21%22.45%
名目GDP293299284284269103
外貨準備高24.326.525.727.826.519.4
対外債務残高128142145146137-
対外債務残高(短期)3231292820-
財政赤字/GDP-1.6%-1.5%-1.7%-2.5%-3.1%-1.4%
政府債務/GDP36.4%39.0%43.8%46.4%54.7%58.4%
経常収支/GDP-4.2%-4.9%-4.2%-3.1%-1.7%8.3%

(参考)ラテンアメリカ諸国の通貨危機-西島章次
(参考)人口・雇用・失業率の推移-世界経済のネタ帳

 

ん~、やはりいずれも通貨危機が起こる直前に対外債務(短期)に対して外貨準備が不足気味になってますね。その他はあんまりピンと来ないです。

ちなみに、タイの通貨危機が起こる直前96年の外貨準備高は369億ドル、対外債務残高(短期)は477億ドルで、こちらも同様の傾向が見られます。

 

おそらく、このような状況が出来上がり、何らかの要因で外国資本の逆流が少しでも起きてしまうと、外貨準備不足で物理的に為替レートを維持することが難しいという思惑から、一気に流れが加速してしまうのでしょうね。

実質為替レートの上昇による通貨の過大評価
  (参考)p10 図6 アジア諸国の実質為替レート指数(97 年=100)
  (参考)p25 表1 危機・金融指標>実質為替減価>メキシコ
  (参考)p7 図表5 新興国の実効為替レート>ブラジル、ロシア、インドネシア
  (参考)p4 図表5 アルゼンチン対外指標>実質実効為替レート
※政府債務・財政赤字の拡大で、債務返済能力に対する信用が低下
※投機マネーが他国の新たな高リターン商品へ移動

 

今回は固定相場制を採用してる国だけを見ましたが、それはあくまで「対外債務(短期)が増えやすい要因のひとつ」であり、必要な条件ではありません。

 

とにかく何らかの理由で外貨準備を上回るお金が国内から出ていけば(もしくは空売りされれば)通貨危機は起こり得ます。(今は通貨危機時に協定相手国から外貨を融通してもらえる「通貨スワップ協定」がありますので、その分まだ買い支え余力があります。)

要因はいろいろあれど、通貨危機も結局は物理問題ということでしょうか。

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